瀬戸内でしか生まれない絆がある。
瀬戸内市・牛窓を舞台に描く、幼なじみのふたりの切なくも温かいラブストーリー。
東京で夢を追う少年と、瀬戸内に生きることを選んだ少女。
ふたりの選択が交差するとき、“帰る場所”の意味が変わっていく――
黒島へ続く幻の道「ヴィーナスロード」で交わされた約束。
結末を、ぜひご視聴ください
ボイスドラマは、この「#セトル!プロジェクト」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Apple Podcastなど各種配信サービスでお聴きいただけます。また、「小説家になろう」でもテキスト版をご覧いただけます。
【ペルソナ】
▪️海風(はるか)= 牛窓町牛窓(本町・関町エリア)(「しおまち唐琴通り」の背後に広がる斜面=坂道にある古民家に住む)
窓から海が間近に見える古民家に住む少女。幼女〜女子高生〜女子大生卒業までを描く。
生活の音(漁船のエンジン音や波の音)が常に聞こえるまち。毎朝、海の色で天気を知るような「海と共に生きる少女」
▪️山鳥(やまと)= 牛窓町牛窓(本町・関町エリア)(かつて風待ち港として栄えた「しおまち唐琴通り」沿いにある網元の本宅に住む)
かつて風待ち港として栄えた歴史ある家並みが続く網元の家に生まれた少年。はるかとは幼馴染。「牛窓海水浴場」や「牛窓ヨットハーバー」でよく遊んでいた。子供の頃から東京に憧れていた。「高い空へ飛び立つ少年」
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【シーン1:『青い記憶』2009年/牛窓漁港(牛窓港)消波ブロックの前/5歳の夏】
◾️SE:漁船のエンジン音や波の音、カモメの声
「ウチ、やまとのお嫁さんになってあげる!」
「おう!わかった!ほんじゃー、一緒に船作ろうでー」
「船ぁ?」
「ああ、タイタニックみたいにでっけー船を造りたいんじゃ」
「タイタニック?沈んでまうが」
「わしの船は絶対沈まん!」
胸を張ってやまとが答える。
ここは、瀬戸内市、牛窓(うしまど)漁港。
ウチの部屋からも見える、お気に入りの場所。
私は、海風(はるか)。
来年小学校に入学する年長さん。
おうちはね、坂の上。
しおまち唐琴通り(からことどおり)から1本入って・・
坂と階段を登ったとこ。
迷路のような細い坂道がいっぱいあるの。
ウチは、お部屋の窓から見る海がだ〜い好き!
知ってる?
沖に島がいっぱい見えるでしょ。
あそこにね、島と島の間に砂の道ができるんだよ。
すぐになくなっちゃうけど。
パパとママは絶対に行っちゃだめだって。
帰れなくなっちゃうから。
でもいつかあの道、渡ってみたいな・・
なんてこと考えてたら、
「聞いとるんか?」
「あ・・」
「わしが造る船は絶対沈まん」
そう言ってニッと笑うのは、山鳥(やまと)。
おんなじ幼稚園に通う幼馴染。
ここから見える、網元の家の子じゃ。
海へ向かって真っ直ぐ伸びる『かぜまち桟橋』。
空の青が、海に溶け出して、キラキラしよる。
やまとは私の手をとって、浜の方へ歩いていく。
目の前には、お城の石垣みたいな、波消しブロック。
桟橋を降りると、そこは白い砂浜。
小さな足跡、二つ並んで続いてる。
すぐに波がさらっていくけど。
「今日は風が強い」
「ねえ、ウチ・・・行きたいとこがあるんよ」
「どこや?」
「黒島の、砂の道」
「そんなん、いつでも行けるわ」
「まだ行ったことないもん」
「わしはあの向こう、
ずうっとつながっとる、東京へ行ってみたいんじゃ」
「東京?」
「ああ、いつもテレビで見とるけど、東京はすげえぞ」
目をキラキラさせてやまとが話す。
私は、そんなとこより、早く砂の道に行きたかった。
あの道を渡りたい・・・
港へ戻ってきた船が、夕焼けを揺らしていく。
オレンジ色は、さざ波になってウチの足元までやってきた。
【シーン2:『青い別離』2021年/黒島/18歳の秋】
◾️SE:波の音、カモメの声
「はるか!はよせえ!
急がにゃあ砂の道が消えてしまうで!」
18歳の秋。
やまとと私は、黒島へ渡った。
といっても初めてじゃないけど。
高校生にとっては、ちょっとだけリッチなデート。
ホテルに送迎ボートを予約しにゃあいけんから。
黒島からヴィーナスロードで中ノ小島へ。
目的は『女神の心』っていうハート型の石。
干潮のとき、2時間くらいで道は海に沈む。
やっと『女神の心』を見つけたときはもう1時間半が経ってた。
知らない人のために言っておくと、中ノ小島は『恋人の聖地』。
『女神の心』に2人で触れると恋が成就するって言われてる。
なのに、やまとなんて鈍感そのもの。
私が目を瞑って石を撫でていると・・
「お、はるか〜
誰か結ばれたい相手がおるんかぁ。
誰や〜」
なんて、アホなこと言うてるから、潮が満ちてくるんじゃ。
「なんとか間に合いそうじゃな」
別に間に合わなくたってよかったのに・・・
やまとのばか・・・
来年、ウチらは高校を卒業する。
ウチは、倉敷のテキスタイル・デザイン専門学校へ。
倉敷の伝統的な繊維技術とデザインを学ぶ。
瀬戸内のあの透き通った『青』を、染め物で表現したいんじゃ。
だけど、やまとは・・
「わしは東京へ行く。
海洋系の大学で最新の造船技術を学ぶんじゃ」
そう言って、来年春には東京へ旅立つ。
まあ、ウチら別に”幼馴染以上恋人未満”なんだから、どうでもいいけど。
それでも、心の空白を埋める自信はなかった。
【シーン3:『オリーブの丘で』2026年/オリーブ園「幸福の鐘」/22歳の春】
◾️SE:遠くに聞こえる波の音、野鳥の声
「はるか、東京で一緒に暮らさないか?」
22歳の春。
やまとが東京の海洋系大学を卒業した。
ウチはその2年前、20歳(はたち)の春に倉敷の専門学校を卒業。
オリーブ園のふもとにある、小さなアトリエ・ショップで働き始めた。
店先には、ウチが染めた『牛窓ブルー』のストールや小物が並ぶ。
少しずつだけど、ファンも増えている。
いつか、自分の店を持ちたい。
波の音がASMRになるような、海の近くに。
いつものようにお店の片付けをしているとき。
突然、連絡もなく、やまとがやってきた。
うちはあわてて店じまいをして、やまとの元へ。
うちを見ると、少し笑いながら、何も言わずに歩いていく。
しかたなく、ただ彼のあとを追った。
たどり着いたのはオリーブ園の山頂広場。
瀬戸内海の島々が、オレンジ色に染まっている。
やがて、黒島の北、児島半島(こじまはんとう)ヘ夕陽が沈みかけたとき・・
「はるか、東京で一緒に暮らさないか?」
「え・・・」
「オレは、この春で大学を卒業する。
やけど、あと半年は『乗船実習科』で勉強じゃ」
「そうなんだ・・・」
「そのあとも、もう決まっとる」
「え・・・?」
「大手の海運会社に内定した」
「そう・・・おめでとう・・
よかったね」
「だから、来年から東京で一緒に暮らさないか?」
「どういうこと・・・?」
「何回も言わせるなよ。
そういうことに決まってるじゃろう」
これって・・・プロポーズ・・・?
そんな・・そんな・・・
私は思わず下を向く。
「なんだよ、嫌なのか?」
「ううん・・・すごく嬉しい・・・
だって・・・待ってたんだもん」(※最後の方は聞き取れないくらい小さな声で)
「ほうか」
「でも・・・」
「え?」
「うち・・・東京へはいけない」
「な・・」
「やまととは一緒に暮らしたい・・・でも・・」
「でも?」
「東京へはいけない・・・
うちは、ここを・・瀬戸内を離れたくない」
「そうか・・・・・・
残念だな・・・」
「ごめんね、やまと」
「いや、いいんだ。
なんだか、そう言われる気がしてた」
「ごめん・・」
「なあ、最後に・・いや、帰る前に・・・
鐘を鳴らさないか。久しぶりに。
せっかく、幸福の鐘(しあわせのかね)があるんだから」
「うん・・」
「確かに、はるか、瀬戸内を大事にしてきたもんなあ。
『牛窓ブルー』か・・・
エーゲ海の色なんだろ」
やまとは急に陽気になる。
心の中が見えるから、余計に辛い・・・
「ひとつだけ、約束してくれないか?」
「え・・」
「秋、オレが大学を出て、就職して落ち着いてきたら・・・
そうだな・・・っと、クリスマス。
今年のクリスマスイブに、もう一度黒島へ行こう」
「黒島?」
「ああ。なんかドラマみたいだけど」
「カッコつけすぎ」
「中ノ小島で、もう一度答えを聞かせてくれ」
「ウチは・・・変わんないわよ」
「いいよ。同じ答えでも」
それ以上は、否定するのをやめた。
これ以上やまとを傷つけるのが辛かったから。
瀬戸内海に帳が降りる前に。
ウチらはオリーブ園をあとにした。
【シーン4:『約束のヴィーナスロード』2026年X’mas/黒島/22歳の冬】
◾️SE:波の音、風の音、カモメの声
さむっ。
いくら温暖な瀬戸内でも真冬の小島は寒いわ。
ひとりぼっちのクリスマスイブ。
今朝までずうっと迷ってたけど、結局来てしまった。
黒島。ヴィーナスロード。
前島からの送迎ボートは、引き潮に合わせて到着した。
ウチはまだ少しだけ、引き切っていない砂の道を渡る。
やまとのうそつき。
自分から言っておいて、結局これないじゃない。
おっきな会社に入ったんだから忙しいに決まってるよね。
でも、いいんだ。
ウチは、自分の気持ちにケリをつけるために来たんだから。
潮が引いていく砂の道を一歩一歩。
思いを打ち消していくように歩いていく。
中ノ小島。
5年前は見つけるのに、あんなに苦労した『女神の心』。
今日は、あっという間に探し当てちゃった。
もうこれで終わりなのに。
ウチは、ハート形の石に手をおきながら目を閉じる。
”やまと、さよなら”
”仕事、がんばってね”
瞳の奥が熱くなる。
そのとき、ウチの手のひらに、ひとまわり大きな手が重なった。
「一緒じゃなきゃ、願いは、叶わないだろ」
「え・・」
「遅くなってごめん。
ホテルの送迎ボート、出発が遅れよったんじゃ」
「やまと!」
振り返ると、照れくさそうにやまとが笑っている。
「あのな、はるか。
オレ、瀬戸内で働くことにしたから」
「え?どういうこと?」
「会社に相談したんだ。
オレは船舶DXのエンジニアだから。
仕事はAIによる自律運航や、陸上からの遠隔監視システム。
どこにいても、できるんだよ」
「え・・・じゃあ・・・」
「ああ、瀬戸内のスマート船舶推進プロジェクト担当にしてもらった。
ここ牛窓でリモートじゃ。
ネットでもう、ちょうどいい古民家を見つけたわ」
「うそ・・・」
「なわけあるかい。
さあ、半年前の答え、効かせてくれ」
「え・・だって」
「一緒に暮らそう!」
「ええっ・・」
「い、いやなのか?」
「いやなわけ・・・ないでしょ」
「はるか!」
やまとは満面の笑みを見せたあと、一瞬正気に戻って・・
「あ!」
「どうしたの?」
「急がないと、砂の道が消える!」
「別に帰れなくなったっていいじゃない」
「はるか!?」
ウチは、少し意地悪に笑う。
遠く牛窓の港に、イルミネーションの光が瞬く。
見上げれば、空には宵の明星。
あっ。つめたっ。
頬に当たったのは・・・六角形の結晶・・?
やだ、気のせいよね。
瀬戸内で雪なんて・・・
波の音が、やまととウチを優しく包み込む。
海の色は、もう迷わない『牛窓ブルー』だった。
